本当の勝ち負け

「功成り名遂げて身退くは天の道」
有名な語句で知っている人も多いかと思いますが出典は老子道徳経の第九章「運夷」の一説です。全文はこちら

持して之を盈(み)たすは其の已むに如かず。端(きた)えて之を鋭くすれば、長く保つべからず。金玉堂に満つれば之を能く守る莫(な)し。富貴にして驕れば自らその咎を遺す。功成り名遂げて身退くは天の道


(解釈)
器に液体をいっぱいにして持って、こぼすくらいなら、いっぱに満たさないほうがましである。刃物を鍛えて鋭利にすれば、折れやすくなり長持ちしない。黄金や宝玉が家に満ちているような金持ちになると、賊に狙われその財産を守り通すことができない。財産と地位とを手に入れて驕り高ぶった態度をとれば、自然と災厄を招く結果となる。功成り、名を遂げた後に、その立場から身を退くようなことこそ、天の道にかなった行為なのである
新書漢文体系2 老子(明治書院)より

老子という書物がいつごろ成立したかはいろいろ諸説があるんだけど現在出土した資料から春秋戦国時代の戦国前期にはだいたい成立していたのではないかと言われている。春秋戦国時代はいわば群雄割拠の時代で様々な人が功成り名を遂げた。特に戦国時代はどこの馬の骨ともわからないような人物がいきなり一国の宰相を任せられるなんて事態すらあった。ただそんな人物でも終わりまで成功できたのは人は意外なほど少ない。多くは成功した後誅殺される、追放されるなんて憂き目にあっている*1
だからこんな語句が生まれたのだと思う。現代でも勝ち組という功成り名を遂げた人たちがいるけど、その後どういう行動を取るかが本当に勝ちか負けかと決めるのだと思う。まあ勝つことすらできない人間が言っても説得力無いけどw

*1:逆に范蠡(ハンレイ)のように人間はここまで器用に生きられるのかという人物もいたりする