オーケストラの収入状況とふと思ったこと

上毛新聞の8月2日の記事にこんな話がありました。


※上毛新聞8月2日の一面記事より一部抜粋

群響、生き残り模索
補助金削減で厳しい運営状況が続く群馬交響楽団が生き残りの道を模索している。昨秋の事業仕分けを受け、国は本年度からの全国の主要文化団体の補助金を一斉に削減。群響も文化庁関連の助成金内示額が前年度比約1700万円減の約8800万円となり、2012年度には約5000万円にまで削減される見通し。群響は職員、楽員の給与と賞与の削減を決めたほか、来年度は増収に向け県外公演を本格化させる方針で、財政基盤強化への懸命な取り組みが行われている。今回の助成金削減を受けて、群響は職員と楽員の8月以降の給与と賞与をカットする。本年度は諸手当の見直しで約700万円、8月12月の賞与から約1600万円をそれぞれ削減する。

群響を含む31団体が加盟する日本オーケストラ連盟によると、今回の助成金カットと地元自治体からの補助金削減が重なり、存続が危ぶまれる事態に発展している団体も少なくない。関東では、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の本年度補助金を大幅削減、同楽団では県や横浜市川崎市などに活動支援を求める署名活動を始めている。
群響に対する県と県教委の補助金も前年度比約2400万円減だが、これまで補助金に含まれていた県出向の人件費を県予算に計上し直した点が影響している。実質的な減額は、移動音楽教室の児童減少分の報酬約500万円にとどまる。県文化振興課は「群響は本県独自の文化の一つ。最低限の公的支援は必要」と引き続き運営面で支えていく考えを示している。

文化庁の調べによると、08年度国予算のうち文化予算に占めた割合はフランス約0.8%やドイツ約0.4%に対して日本は約0.1%。先進国の中では文化保護の比重がもともと低い。日本オーケストラ連盟は「100人近く団員を抱えるオケが事業収入のみで黒字化するのは不可能に近い。欧米の世界的オケでさえ行政の補助金が支えだ」と話す。


この記事は群馬交響楽団についての話ですが

群響を含む31団体が加盟する日本オーケストラ連盟によると、今回の助成金カットと地元自治体からの補助金削減が重なり、存続が危ぶまれる事態に発展している団体も少なくない。

とあるように運営が厳しい状況にあるオーケストラは他にもあるようです。そこでオーケストラの収入状況を社団法人オーケストラ連盟が公開している「オーケストラの実績」から見てみます。

オーケストラの収入状況

※各数字は社団法人 日本オーケストラ連盟オーケストラ実績 2008年(PDF)より。
※2008年4月1日〜2009年3月31日までの実績です。
※( )内のパーセントは年間収入合計に対する割合です。
※金額の単位は千円。

正会員オーケストラ

年間収入合計 演奏収入 民間支援 公的支援 助成団体 その他
NHK交響楽団 3,027,308 1,269,506(41.9%) 351,400(11.6%) 0(0.0%) 1,400,000(46.2%) 6,402(0.2%)
オーケストラ・アンサンブル金沢 1,096,009 474,743(43.3%) 37,550(3.4%) 457,481(41.7%) 10,721(1.0%) 115,514(10.5%)
大阪シンフォニー交響楽団 505,120 379,757(75.2%) 54,734(10.8%) 56,589(11.2%) 13,200(2.6%) 840(0.2%)
大阪センチュリー交響楽団 784,444 253,579(32.3%) 21,666(2.8%) 435,000(55.4%) 9,050(1.2%) 66,149(8.4%)
大阪フィルハーモニー交響楽団 1,027,664 568,697(55.3%) 158,970(15.5%) 272,057(26.5%) 0(0.0%) 27,940(2.7%)
神奈川フィルハーモニー交響楽団 721,405 379,380(52.6%) 16,470(2.3%) 320,328(44.4%) 1,800(0.2%) 3,427(0.5%)
関西フィルハーモニー交響楽団 491,400 387,254(78.8%) 50,651(10.3%) 47,838(9.7%) 4,200(0.9%) 1,457(0.3%)
九州交響楽団 839,825 388,061(46.2%) 42,536(5.1%) 397,800(47.4%) 7,900(0.9%) 3,528(0.4%)
京都市交響楽団 153,704 153,602(99.9%) 102(0.1%)
群馬交響楽団 762,361 209,588(27.5%) 36,470(4.8%) 505,518(66.3%) 600(0.1%) 10,185(1.3%)
※札幌交響楽団 1,033,023 534,147(51.7%) 97,664(9.5%) 371,115(35.9%) 14,700(1.4%) 15,397(1.5%)
新日本フィルハーモニー交響楽団 1,330,644 986,633(74.1%) 172,945(13.0%) 161,568(12.1%) 3,700(0.3%) 5,798(0.4%)
仙台フィルハーモニー交響楽団 881,287 414,865(47.1%) 17,498(2.0%) 420,702(47.7%) 500(0.1%) 27,722(3.1%)
セントラルフィルハーモニー交響楽団 275,324 217,507(79.0%) 5,510(2.0%) 36,507(13.3%) 0(0.0%) 15,800(5.7%)
東京交響楽団 1,295,202 1,101,548(85.0%) 55,432(4.3%) 119,283(9.2%) 15,625(1.2%) 3,314(0.3%)
東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 510,108 412,874(80.9%) 7,125(1.4%) 77,124(15.1%) 7,300(1.4%) 5,685(1.1%)
東京都交響楽団 1,871,080 755,616(40.4%) 15,922(0.9%) 1,078,102(57.6%) 4,700(0.3%) 16,740(0.9%)
東京フィルハーモニー交響楽団 1,854,162 1,504,042(81.1%) 192,737(10.4%) 121,513(6.6%) 2,000(0.1%) 33,870(1.8%)
名古屋フィルハーモニー交響楽団 1,186,930 509,399(42.9%) 158,044(13.3%) 462,784(39.0%) 0(0.0%) 56,703(4.8%)
日本フィルハーモニー交響楽団 1,381,668 967,870(70.1%) 125,348(9.1%) 100,338(7.3%) 6,300(0.5%) 181,812(13.2%)
広島交響楽団 715,893 323,490(45.2%) 69,928(9.8%) 304,410(42.5%) 13,300(1.9%) 4,765(0.7%)
兵庫芸術文化センター管弦楽団 759,057 301,254(39.7%) 0(0.0%) 433,147(57.1%) 0(0.0%) 24,656(3.2%)
山形交響楽団 404,193 204,201(50.5%) 49,666(12.3%) 138,302(34.2%) 8,800(2.2%) 3,224(0.8%)
読売日本交響楽団 2,334,913 526,818(22.6%) 1,587,500(68.0%) 157,878(6.8%) 0(0.0%) 62,717(2.7%)
正会員24団体合計 25,243,724 13,224,431(52.4%) 3,325,766(13.2%) 6,475,384(25.7%) 1,524,396(6.0%) 693,747(2.7%)


※札幌交響楽団、「一般会計の事業活動収支のみ」の数字。

準会員オーケストラ
年間収入合計 演奏収入 民間支援 公的支援 助成団体 その他
京都フィルハーモニー室内合奏団 193,580 175,874(90.9%) 3,205(1.7%) 10,507(5.4%) 1,500(0.8%) 2,494(1.3%)
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 61,792 59,092(95.6%) 0(0.0%) 0(0.0%) 2,700(4.4%) 0(0.0%)
静岡交響楽団 48,497 42,619(87.9%) 5,240(10.8%) 0(0.0%) 638(1.3%) 0(0.0%)
中部フィルハーモニー交響楽団 145,914 107,519(73.7%) 37,765(25.9%) 0(0.0%) 0(0.0%) 630(0.4%)
東京ニューシティ管弦楽団 321,970 308,070(95.7%) 1,900(0.6%) 12,000(3.7%) 0(0.0%) 0(0.0%)
東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団 126,528 121,348(95.9%) 4,700(3.7%) 0(0.0%) 480(0.4%) 0(0.0%)
準会員6団体合計 898,281 814,522(90.7%) 52,810(5.9%) 22,507(2.5%) 5,318(0.6%) 3,124(0.3%)
正会員・準会員合計
年間収入合計 演奏収入 民間支援 公的支援 助成団体 その他
正会員・準会員30団体 26,142,005 14,038,953(53.7%) 3,378,576(12.9%) 6,497,891(24.9%) 1,529,714(5.9%) 6,96,871(2.7%)
公的支援の内訳

公的支援文化庁基金地方自治体」の合計金額です。それぞれの金額は以下のようになっています。

文化庁基金 地方自治
NHK交響楽団 0(0.0%) 0(0.0%)
オーケストラ・アンサンブル金沢 75,399(6.9%) 382,082(34.9%)
大阪シンフォニー交響楽団 50,089(9.9%) 6,500(1.3%)
大阪センチュリー交響楽団 45,000(6.0%) 390,000(51.7%)
大阪フィルハーモニー交響楽団 99,057(9.6%) 173,000(16.8%)
神奈川フィルハーモニー交響楽団 51,228(7.1%) 269,100(37.3%)
関西フィルハーモニー交響楽団 45,238(9.2%) 2,600(0.5%)
九州交響楽団 63,800(7.6%) 334,000(39.8%)
京都市交響楽団
群馬交響楽団 114,424(15.0%) 391,094(51.3%)
札幌交響楽団 103,115(10.0%) 268,000(25.9%)
新日本フィルハーモニー交響楽団 126,498(9.5%) 35,070(2.6%)
仙台フィルハーモニー交響楽団 67,997(7.7%) 352,705(40.0%)
セントラルフィルハーモニー交響楽団 15,000(5.4%) 21,507(7.8%)
東京交響楽団 118,283(9.1%) 1,000(0.1%)
東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 77,124(15.1%) 0(0.0%)
東京都交響楽団 178,102(9.5%) 900,000(48.1%)
東京フィルハーモニー交響楽団 121,513(6.6%) 0(0.0%)
名古屋フィルハーモニー交響楽団 95,345(8.0%) 367,439(31.0%)
日本フィルハーモニー交響楽団 100,338(7.3%) 0(0.0%)
広島交響楽団 74,410(10.4%) 230,000(32.1%)
兵庫芸術文化センター管弦楽団 0(0.0%) 433,147(57.1%)
山形交響楽団 47,508(11.8%) 90,794(22.5%)
読売日本交響楽団 157,878(6.8%) 0(0.0%)
正会員24団体合計 1,827,346(7.2%) 4,648,038(18.4%)
文化庁基金 地方自治
京都フィルハーモニー室内合奏団 10,507(5.4%) 0(0.0%)
ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団 0(0.0%) 0(0.0%)
静岡交響楽団 0(0.0%) 0(0.0%)
中部フィルハーモニー交響楽団 0(0.0%) 0(0.0%)
東京ニューシティ管弦楽団 12,000(3.7%) 0(0.0%)
東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団 0(0.0%) 0(0.0%)
準会員6団体合計 22,507(2.5%) 0(0.0%)

正会員と準会員を合わせた30団体の年間収入合計に対して演奏収入合計の割合は53.7%。つまり多くのオーケストラは何かしらの支援を受けることで運営しているということになります。その各支援の中でも最も大きい割合なのが文化庁基金地方公共団体などからの公的支援。そしてこの公的支援が大きな割合を占めているオーケストラは

収入の内公的支援が占める割合
群馬交響楽団 66.3%
東京都交響楽団 57.6%
兵庫芸術文化センター管弦楽団 57.1%
大阪センチュリー交響楽団 55.4%
仙台フィルハーモニー交響楽団 47.7%
九州交響楽団 47.4%
神奈川フィルハーモニー交響楽団 44.4%
広島交響楽団 42.5%
オーケストラ・アンサンブル金沢 41.7%

あたりでしょうか。たしかにこれくらい公的支援による収入の割合が大きいと事業仕分けや自治体の財政難による支援金額の削減の影響は大きく、運営に支障が出たり、記事にあるように

今回の助成金カットと地元自治体からの補助金削減が重なり、存続が危ぶまれる事態に発展している団体も少なくない。

という事になっている、もしくはなりそうなオーケストラはあるのだろうと思います。

ふと思ったこと

さてこのオーケストラの収入状況を調べながらふと思ったのがこの話。
asahi.com(朝日新聞社):無料公演なのに「著作権料を」 JASRACにオケ当惑 - 文化
神奈川フィルハーモニー管弦楽団が行ったノーギャラのボランティア演奏会にJASRAC著作権料の支払いを求めたという話ですが、どうしてJASRACが支払いを求めたのかという事についてはなぜ無料でノーギャラのコンサートにJASRACが金を取りに来るのか? | 栗原潔のIT弁理士日記を読んでもらえば良いかと思いますが、個人的に気になったのがこの部分でして

神奈川フィルハーモニー管弦楽団は、神奈川県内の養護学校などでのボランティアコンサートを県の依頼に応じる形で実施してきた。「子どもたちに音楽を届けたいという気持ちを積極的に打ち出したい」と今年4月から自主公演に切り替えたところ、JASRACから使用料を払うようにという指摘を受けた。団員は交通費等の実費のみで、公演への報酬は受け取っていない。

どうして神奈川フィルハーモニー管弦楽団は自主公演に切り替えたのだろうと。記事中では

神奈川フィルの長塚義寛理事兼事務局長は「内容に変更はなく、社会貢献の気持ちを表したかっただけなのに」と納得しきれない。

と述べていますが、別に切り替えなくてもこういう気持ちは表せるでしょうし、それこそ主催を元に戻せば済む話です。


そしてここからは単なる個人的な憶測ですが、神奈川フィルハーモニー管弦楽団上記のように収入に占める公的支援の割合が大きいオーケストラの一つです。また上毛新聞の記事に

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の本年度補助金を大幅削減、同楽団じゃ県や横浜市川崎市などに活動支援を求める署名活動を始めている。

とあったり、産経ニュースの記事にも
神奈川フィルが財政難…支援求め署名活動 (1/2ページ) - MSN産経ニュース

神奈川フィルの年間の事業費の約4割は、県と横浜市川崎市などからの補助金。しかし、財政状況の悪化から、県からの補助金は年々削減され、今年度は昨年度よりも1800万円少ない2億500万円。横浜市川崎市の財政状況も厳しくなってきており、来年度以降も補助金の減少が続いた場合、楽団の存続が危うくなる事態が予測されるため、署名活動を決めた。

とあるなど、公的支援を削られているオーケストラでもあります。それで思ったのが今まで県の依頼などで行ってきたボランティアのコンサートなどがこれら公的支援の削減によりその影響で自治体が依頼をしてこなくなってきた、そのため自主公演に切り替えたのではないのかなと。またこういうボランティアコンサートを自主公演にすることによって神奈川フィルハーモニー管弦楽団の名前を前面に出し、オーケストラの存続や公的支援の継続などをアピールする目的もあったのかもしれない。
まああくまで憶測でなんの根拠もない話ですが、単なる著作権云々ということだけじゃなくて公的支援やオーケストラの存続などの問題も絡んでいるかもしれないと思ったりしました。