ファイル共有やオンラインストレージにおけるコミックの流通とダウンロードの状況

赤松健氏が社長を務めるJコミにてこういう計画を行うそうです。
(18) 違法絶版マンガファイル浄化計画 - (株)Jコミックテラスの中の人

そこでJコミでは、みんなの力を借りてネット上をパトロールし、「違法ZIPファイル」(※絶版漫画のみ)を回収する計画を考案しました。

そして、作者のOKが得られた漫画ファイルにのみ、広告を自動挿入して、PDF化したりアルヌールで読めるようにし、その純利益を作者へ100%お渡ししようというわけなのです。

最終目標は、ネット上に流れる全ての「違法な絶版マンガファイル」を、「広告入りの正規版(作者がOKしたもの)」と入れ替えること!(一体何年かかるんだソレは。(^^;))

・・・これは今、Jコミにしか挑戦し得ない大事業と言えるでしょう!

この計画を読んでみて実際ファイル共有におけるコミックの流通やダウンロードの状況はどういうものなのか?と思い。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会ACCS)が公開している「ファイル共有ソフト利用実態調査〜クローリング調査〜」や一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が公開している「ファイル共有ソフトの利用に関する調査報告書」などから見てみました。

Winny、share、Perfectdarkにおけるコミックの流通状況

まずファイル共有におけるコミックの流通状況を「ファイル共有ソフト利用実態調査〜クローリング調査〜」にあるWinny、share、PerfectDarkを対象に行ったクローリング調査から見てみます。
第9回「ファイル共有ソフト利用実態調査」 | 調査報告書 | 活動報告 | ACCS
ファイル共有ソフト利用実態調査〜クローリング調査〜報告書(PDF)より
※調査したのは2010年12月17日17:00〜2010年12月18日17:00までの24時間。
※それぞれのファイル共有ソフトを対象にランダムで20000万件のファイルを抽出し分類した結果です。

winny 流通数 割合 share 流通数 割合 perfectdark 流通数 割合
1 アダルト 6101 30.5% アダルト 6039 30.2% アニメ 4674 23.4%
2 同人 3311 16.6% アニメ 3680 18.4% アダルト 4195 21.0%
3 アニメ 2506 12.5% 同人 2114 10.6% 同人 2092 10.5%
4 *コミック 1970 9.9% *コミック 1822 9.1% *コミック 1760 8.8%
5 音楽 1676 8.4% 映像 1403 7.0% 音楽 1737 8.7%
6 その他 1113 5.6% 不明ファイル 1041 5.2% 映像 1601 8.0%
7 映像 851 4.3% 音楽 847 4.2% その他 1191 6.0%
8 不明ファイル 595 3.0% 映画(海外) 791 4.0% 不明ファイル 663 3.3%
9 書籍 513 2.6% 映像(海外) 520 2.6% ゲーム 518 2.6%
10 情報 487 2.4% その他 416 2.1% 書籍 449 2.2%
11 PV 238 1.2% 書籍 333 1.7% 映像(海外) 427 2.1%
12 ゲーム 217 1.1% ゲーム 256 1.3% アプリ 257 1.3%
13 映像(海外) 152 0.8% PV 231 1.2% PV 203 1.0%
14 アプリ 120 0.6% 映画 208 1.0% 映画(海外) 123 0.6%
15 映画(海外) 74 0.4% アプリ 207 1.0% 映画 68 0.3%
16 映画 45 0.2% 情報 71 0.4% 情報 40 0.2%
17 危険ファイル 31 0.2% 危険ファイル 21 0.1% 危険ファイル 2 0.0%
合計 20000 100.0% 合計 20000 100.0% 合計 20000 100.0%


Winny、share、Perfectdarkともコミックが流通ファイルの10%弱ほどを占めており、かなりの数のコミックがアップロードされている事がわかります。

ファイル共有におけるコミックのダウンロードの状況

上記のようにファイル共有での流通数は多いコミックですが、ダウンロードの方の状況を見るとまた違う面を見ることができます。
CODA - 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構
ファイル共有ソフトの利用に関する調査報告書(PDF)より
※この調査は「過去一年以内にファイル共有を利用」した人が対象でありその割合は全体の5.8%なっています*1



過去に一年以内にファイル共有を利用した人(5.8%)の中でコミック・マンガをダウンロードしたという人はその内9.0%程度だったりします。また「ファイル種類別ダウンロード数」から1年間のコミック・マンガのダウンロード数を見るとこうなっており、

1〜10ファイル 11〜50ファイル 51ファイル以上 なし
コミック・マンガ 4.9% 1.8% 1.5% 91.9%

大量にダウンロードするような人もそれほど多くはありません。ちなみに今回は15歳以下を対象にした調査も行っていますがそちらもほぼ同じような調査結果になっています。
それと近年利用者が多くなっているのでは?と言われているオンラインストレージ(アップローダー)等の状況ですが、今回初めてそれらが調査対象となり利用状況の調査が公開されています。まずオンラインストレージやアップローダーの「利用経験がある」答えているのは全体の15.9%。そしてサイト別のダウンロードしたファイルのジャンルを見ると



コミックは入っておらず、おそらく「その他のコンテンツ」に入っていて「ビジネスソフト」の4.0%以下なのではないかと思われます。

感想とJコミの狙い(憶測)

これらの調査から考えてみるとファイル共有におけるコミックは流通数(アップロード)は多いが、ダウンロードはあまりされないという、人気(需要)がそれほど無いジャンルと言えるんじゃないかと思います。まあ日本の場合、

・コミックの価格自体がそれほど高くない。
・多くのコミックは古本屋で定価以下で購入もできるし、立ち読みができる店も多い。
・ネットカフェも充実している。
・場所によっては公共の図書館等でもコミックを置いているところもある。

といったような事が考えられ、コミックをダウンロードするための情報収集の手間や時間、さらに法を犯すリスクを取ってまでコミックをダウンロードするメリットが少ないのもこういう状況になっている一因ではないかなと思っています。
そしてもう一つ。ここからは完全に個人的な憶測ですがJコミがこういう計画を行うのは、Jコミの目的が
Jコミ - Wikipedia

ユーザーがアップロードした絶版漫画を、作者の了解を得て広告を挿入した形で公開し、広告収入を作者に還元することを目的としている

である以上、この計画によってユーザーからのアップロード数の増加と「ファイル共有やオンラインストレージで違法に流通されたままよりも、Jコミで公開していくらかでも収入がある方が良いのでは?」といった感じで作者へのアプローチと許諾を取りやすくする狙いもあるのかなと思ったりしました。

*1:ちなみに過去に利用していた(一年以上前に利用していた)割合は12.9%となっています