2011年の世界の音楽産業動向

6/11に一般社団法人 日本レコード協会のサイトで「THE RECORD 2012年6月号」が公開されました。この中に、毎年特集されている「世界の音楽産業」の2011年版が掲載されています。今年もこの特集から2011年の世界の音楽産業の動向を見てみました。
※資料はTHE RECORD 2012年6月号(PDF)より。
※為替レートは1ドル=79.74円。
※最新の売上は【2017年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上動向を見てください。
※2008年〜2010年と2012年〜2016年の動向は以下を見てください。

2008年の世界の音楽産業動向
2009年の世界の音楽産業動向
2010年の世界の音楽産業動向
【2012年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2013年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2014年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2015年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2016年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上動向

※各数字は後に訂正される可能性があります。

<2011年>世界の音楽の売上

最初に2011年における世界の音楽の売上を見てみます。
※金額は「卸価格ベース」

2011年 2010年 前年比
パッケージ売上 101億7000万ドル 111億4200万ドル −8.7%
有料音楽配信売上 52億2900万ドル 48億4000万ドル +8.0%
演奏権収入 9億500万ドル 8億6200万ドル +4.9%
シンクロ収入 3億4200万ドル 3億2400万ドル +5.7%
合計 166億4600万ドル 171億6800万ドル −3.0%

今年の「世界の音楽産業」の特集は、これまでの特集と異なる点がいくつかあります。まず売上の金額がこれまでは「レコード会社収入ベース」だったのが、「卸価格ベース」「小売価格ベース」の2つになっています。最初、「卸価格ベース」=「レコード会社収入ベース」なのかなと思ったのですが、2010年の数字と比べるとそういう訳でも無いようです。
あと「権利収入」の項目が無くなり、「演奏権収入」「シンクロ収入」の2つの項目が新設されています。ちなみに「シンクロ収入」はシンクロナイゼーション(原盤ライセンス)の収入の事だそうです。
そして、1997年以降の売上の推移は以下のようになっています。


<2011年>総売上上位20ヶ国の状況

次に、2011年音楽の売上上位20ヶ国の売上を見てみます。


卸価格ベースと小売価格ベース、それぞれの世界シェアはこうなっています。

卸価格ベース 世界シェア 小売価格ベース 世界シェア
1 アメリ 26.3% 1 アメリ 27.8%
2 日本 24.6% 2 日本 23.8%
3 ドイツ 8.9% 3 ドイツ 8.6%
4 イギリス 8.6% 4 イギリス 8.2%
5 フランス 6.0% 5 フランス 6.0%
6 オーストラリア 2.9% 6 オーストラリア 2.8%
7 カナダ 2.6% 7 カナダ 2.3%
8 ブラジル 1.6% 8 韓国 1.7%
9 オランダ 1.4% 9 ブラジル 1.6%
10 イタリア 1.4% 10 イタリア 1.3%
11 韓国 1.2% 11 オランダ 1.2%
12 スペイン 1.1% 12 スウェーデン 1.0%
13 スイス 1.0% 13 インド 1.0%
14 スウェーデン 0.9% 14 ベルギー 0.9%
15 メキシコ 0.8% 15 メキシコ 0.9%
16 インド 0.8% 16 スペイン 0.9%
17 ベルギー 0.8% 17 スイス 0.9%
18 オーストリア 0.7% 18 オーストリア 0.8%
19 ノルウェー 0.7% 19 ノルウェー 0.7%
20 南アフリカ 0.6% 20 南アフリカ 0.7%

2010年はレコード会社収入ベースで前年比増となった国が韓国、インド、メキシコの3ヶ国だったのが、2011年は卸価格ベースでオーストラリア、カナダ、ブラジル、韓国、スウェーデン、メキシコ、インドと7カ国に増と、売上の減少傾向に歯止めがかかってきている国が増えてきています。
また、2010年の売上金額で「有料音楽配信>パッケージ」となっていた国は韓国とインドのみだったのですが、2011年はこの2ヶ国に加え、アメリカ、ノルウェー加わっています。さらにスウェーデンはパッケージと有料音楽配信の売上がほぼ同じ。オーストラリア、カナダは有料音楽配信の総売上に占める割合が4割近くになってきています。反面、日本、ドイツ、ブラジル、スイスなどパッケージの売上が7割以上を占めている国もあり、有料音楽配信が主流になってきている国と、パッケージが依然として力を持つ国と2極化してきている可能性があるのかなと思いました。


パッケージと有料音楽配信の売上順位

そして、パッケージと有料音楽配信をそれぞれ売上順に並べ替えてみました。
※パッケージと有料音楽配信の売上金額は上記の収入シェアの割合から、私が計算したものですので参考程度に見てください。
※金額は卸価格ベース。

国名 パッケージ売上 収入に占める割合 世界シェア 国名 有料音楽配信売上 収入に占める割合 世界シェア
1 日本 30億6580万ドル 75% 30.1% 1 アメリ 22億3020万ドル 51% 42.7%
2 アメリ 18億3660万ドル 42% 18.1% 2 日本 8億9930万ドル 22% 17.2%
3 ドイツ 11億4950万ドル 78% 11.3% 3 イギリス 4億5880万ドル 32% 8.8%
4 イギリス 8億3150万ドル 58% 8.2% 4 ドイツ 2億2110万ドル 15% 4.2%
5 フランス 7億1160万ドル 71% 7.0% 5 フランス 1億9040万ドル 19% 3.6%
6 オーストラリア 2億6140万ドル 55% 2.6% 6 オーストラリア 1億8060万ドル 38% 3.5%
7 カナダ 2億3440万ドル 54% 2.3% 7 カナダ 1億6490万ドル 38% 3.2%
8 ブラジル 1億9430万ドル 74% 1.9% 8 韓国 1億770万ドル 54% 2.1%
9 オランダ 1億7050万ドル 71% 1.7% 9 スウェーデン 6830万ドル 44% 1.3%
10 イタリア 1億6310万ドル 68% 1.6% 10 インド 6500万ドル 46% 1.3%
11 スイス 1億1400万ドル 72% 1.1% 11 ノルウェー 5180万ドル 45% 1.0%
12 スペイン 1億64万ドル 56% 1.0% 12 イタリア 4800万ドル 20% 0.9%
13 ベルギー 1億540万ドル 75% 1.0% 13 スペイン 4560万ドル 24% 0.9%
14 メキシコ 9880万ドル 70% 1.0% 14 ブラジル 4460万ドル 17% 0.9%
15 南アフリカ 9490万ドル 93% 0.9% 15 メキシコ 3950万ドル 28% 0.8%
16 韓国 8780万ドル 44% 0.9% 16 スイス 3640万ドル 23% 0.7%
17 オーストリア 8320万ドル 70% 0.8% 17 オランダ 3360万ドル 14% 0.7%
18 スウェーデン 6990万ドル 45% 0.7% 18 オーストリア 2140万ドル 18% 0.4%
19 インド 5790万ドル 41% 0.6% 19 ベルギー 1830万ドル 13% 0.3%
20 ノルウェー 4950万ドル 43% 0.5% 20 南アフリカ 610万ドル 6% 0.1%
* 世界合計 101億5400万ドル 61% 100.0% * 世界合計 52億2900万ドル 31% 100.0%

依然としてパッケージは日本、有料音楽配信アメリカが首位をキープしており、2位以下との差もかなりあるため、当面の間この2国が首位を維持しそうかなと思います。あと、スウェーデンの有料音楽配信の売上がものすごい勢いで伸びていて、2010年のレコード会社収入ベースで総売上に占める割合がパッケージ約61%、有料音楽配信約27%だったのが、2011年はパッケージ45%、有料音楽配信44%と一気に同じぐらいの売上になり、その効果か総売上も前年比3.0%増となっています。理由はよくわかりませんが、スウェーデンで有料音楽配信というとSpotify*1が思い浮かびますが、このサービスによる影響なのでしょうか。

音楽の売上上位20ヶ国における一人当たりの売上額

昨年と同じく、wikipedia国の人口順リスト - Wikipedia*2を元に1人当たりの売上額も計算してみました。

卸価格ベースの1人当たりの売上額
国名 1人当たりの売上(卸価格ベース) 卸価格ベース総売上 2010年推計人口
1 日本 32.30ドル 40億8770万ドル 1億2653万5920人
2 ノルウェー 23.57ドル 1億1510万ドル 488万3111人
3 イギリス 23.11ドル 14億3370万ドル 6203万5570人
4 オーストラリア 21.34ドル 4億7520万ドル 2226万8384人
5 スイス 20.65ドル 1億5830万ドル 766万4318人
6 ドイツ 17.91ドル 14億7370万ドル 8230万2465人
7 スウェーデン 16.56ドル 1億5530万ドル 937万9687人
8 フランス 15.96ドル 10億220万ドル 6278万7427人
9 オランダ 14.46ドル 2億4020万ドル 1661万2988人
10 オーストリア 14.17ドル 1億1890万ドル 839万3644人
11 アメリ 14.09ドル 43億7290万ドル 3億1038万3948人
12 ベルギー 13.12ドル 1億4050万ドル 1071万2066人
13 カナダ 12.76ドル 4億3400万ドル 3401万6593人
14 韓国 4.14ドル 1億9950万ドル 4818万3584人
15 スペイン 4.12ドル 1億9000万ドル 4607万6989人
16 イタリア 3.96ドル 2億3990万ドル 6055万848人
17 南アフリカ 2.03ドル 1億200万ドル 5013万2817人
18 ブラジル 1.35ドル 2億6260万ドル 1億9494万6470人
19 メキシコ 1.24ドル 1億4120万ドル 1億1342万3047人
20 インド 0.12ドル 1億4120万ドル 12億2451万4327人
小売価格ベースの1人当たりの売上額
国名 1人当たりの売上(小売価格ベース) 小売価格ベース総売上 2010年推計人口
1 日本 43.83ドル 55億4550万ドル 1億2653万5920人
2 ノルウェー 32.07ドル 1億5660万ドル 488万3111人
3 イギリス 30.70ドル 19億420万ドル 6203万5570人
4 オーストラリア 29.59ドル 6億5890万ドル 2226万8384人
5 スイス 26.02ドル 1億9940万ドル 766万4318人
6 スウェーデン 25.67ドル 2億4080万ドル 937万9687人
7 ドイツ 24.51ドル 20億1760万ドル 8230万2465人
8 オーストリア 23.33ドル 1億9580万ドル 839万3644人
9 フランス 22.16ドル 13億9150万ドル 6278万7427人
10 アメリ 20.89ドル 64億8500万ドル 3億1038万3948人
11 ベルギー 19.46ドル 2億850万ドル 1071万2066人
12 オランダ 17.23ドル 2億8620万ドル 1661万2988人
13 カナダ 15.73ドル 5億3520万ドル 3401万6593人
14 韓国 8.05ドル 3億8800万ドル 4818万3584人
15 イタリア 5.03ドル 3億450万ドル 6055万848人
16 スペイン 4.41ドル 2億310万ドル 4607万6989人
17 南アフリカ 3.05ドル 1億5290万ドル 5013万2817人
18 ブラジル 1.88ドル 3億6590万ドル 1億9494万6470人
19 メキシコ 1.80ドル 2億380万ドル 1億1342万3047人
20 インド 0.19ドル 2億2770万ドル 12億2451万4327人
パッケージの一人あたりの売上額

※卸価格ベースで計算してあります。

国名 1人当たりの売上(パッケージ) パッケージ売上 2010年推計人口
1 日本 24.23ドル 30億6580万ドル 1億2653万5920人
2 スイス 14.80ドル 1億1340万ドル 766万4318人
3 ドイツ 13.97ドル 11億4950万ドル 8230万2465人
4 イギリス 13.40ドル 8億3150万ドル 6203万5570人
5 オーストラリア 11.74ドル 2億6140万ドル 2226万8384人
6 フランス 11.33ドル 7億1160万ドル 6278万7427人
7 オランダ 10.26ドル 1億7050万ドル 1661万2988人
8 ノルウェー 10.14ドル 4950万ドル 488万3111人
9 オーストリア 9.91ドル 8320万ドル 839万3644人
10 ベルギー 9.84ドル 1億540万ドル 1071万2066人
11 スウェーデン 7.45ドル 6990万ドル 937万9687人
12 カナダ 6.89ドル 2億3440万ドル 3401万6593人
13 アメリ 5.92ドル 18億3660万ドル 3億1038万3948人
14 イタリア 2.69ドル 1億6310万ドル 6055万848人
15 スペイン 2.31ドル 1億640万ドル 4607万6989人
16 南アフリカ 1.89ドル 9490万ドル 5013万2817人
17 韓国 1.82ドル 8780万ドル 4818万3584人
18 ブラジル 1.00ドル 1億9430万ドル 1億9494万6470人
19 メキシコ 0.87ドル 9880万ドル 1億1342万3047人
20 インド 0.05ドル 5790万ドル 12億2451万4327人
有料音楽配信の1人あたりの売上額

※卸価格ベースで計算してあります。

国名 1人当たりの売上(有料音楽配信 有料音楽配信売上 2010年推計人口
1 ノルウェー 10.61ドル 5180万ドル 488万3111人
2 オーストラリア 8.11ドル 1億8060万ドル 2226万8384人
3 イギリス 7.40ドル 4億5880万ドル 6203万5570人
4 スウェーデン 7.28ドル 6830万ドル 937万9687人
5 アメリ 7.19ドル 22億3020万ドル 3億1038万3948人
6 日本 7.11ドル 8億9930万ドル 1億2653万5920人
7 カナダ 4.85ドル 1億6490万ドル 3401万6593人
8 スイス 4.75ドル 3640万ドル 766万4318人
9 フランス 3.03ドル 1億9040万ドル 6278万7427人
10 ドイツ 2.69ドル 2億2110万ドル 8230万2465人
11 オーストリア 2.55ドル 2140万ドル 839万3644人
12 韓国 2.24ドル 1億770万ドル 4818万3584人
13 オランダ 2.02ドル 3360万ドル 1661万2988人
14 ベルギー 1.71ドル 1830万ドル 1071万2066人
15 スペイン 0.99ドル 4560万ドル 4607万6989人
16 イタリア 0.79ドル 4800万ドル 6055万848人
17 メキシコ 0.35ドル 3950万ドル 1億1342万3047人
18 ブラジル 0.23ドル 4460万ドル 1億9494万6470人
19 南アフリカ 0.12ドル 610万ドル 5013万2817人
20 インド 0.05ドル 6500万ドル 12億2451万4327人

2010年(レコード会社収入ベース)の1人あたりの売上額と比べると、総売上とパッケージの1人あたりの売上額では日本が引き続き首位なのですが、有料音楽配信が首位から6位になっています。これは2011年の日本の有料音楽配信の売上が前年比16%減*3と大きく減少した事と、売上の主力がパッケージから有料音楽配信へ移っている国が多くなったことが要因かと思われます。
それと、有料音楽配信の売上上位10ヶ国のフォーマット別売上は以下のようになっています。

2010年だとRingtunes(着うた)やRingback tunes(待ちうた、メロディコール)がある程度シェアを持っていた国がいくつかあったのですが、シングルトラックに吸収されてしまったのか、2011年だと有料音楽配信売上上位10カ国でシェアを持っている国は日本ぐらいになっています。


法規制の影響について

さて、これを書いているときにこのニュースが流れてきました。
違法ダウンロード刑事罰化・著作権法改正案が衆院で可決 - ITmedia ニュース
現在、明確にダウンロード違法化、刑罰化している国はドイツ*4くらいですが、その他の国もスリーストライク法など何かしら法規制をしたり、または従来の法規制を強化する国が多くなり、P2Pやオンラインストレージ、違法ダウンロードサイトなどへの摘発も増えています。
では、法規制の強化等により音楽の売上に影響が出ているのかというと、なかなか難しいところかなと思います。まず、売上に良い影響が出ているといってよさそうな国は韓国でしょうか。韓国は2007年あたりから法規制の強化を進めてきており、その効果なのか音楽の売上が好調で、世界の売上順位も2007年に23位だったのが2011年は11位にまで上昇しています。日本の権利者系の団体が法規制の強化を求めているのは、韓国が法規制と摘発の強化によって売上が上がってきていると考えているからなのかもしれません。
反対に、フランスはスリーストライク法を導入し、違法サイトへのアクセスやファイル共有のトラフィックは減少したものの*5、パッケージの売上の減少が大きく総売上では減少傾向が続いています。アメリカ、ドイツも減少幅は小さくなってきていますが、減少傾向自体は続いています。
また、2009年に法規制を強化した年スウェーデンは、その2009年は前年比12%増となったのですが、2010は前年比7%減、そして2011年は卸価格ベースで前年比3%増と増減を繰り返しています。
個人的には、新しい法規制の導入や強化によって比較的効果が出やすい国は、
1・音楽の市場規模がそれほど大きくない。
2・売上の主力が有料音楽配信になっている、もしくはなりつつある国。
なのかなと思っています。そう考えると日本はアメリカに次ぐ世界第二位の音楽市場で市場規模も大きい。そして売上の主流もパッケージであり、しかも有料音楽配信は従来の携帯電話からスマートフォンへの移行の影響もあってか、着うたやモバイルのシングルトラック(着うたフル)が非常に不調で、売上が減少傾向になってしまっています。そのため、違法ダウンロード刑事罰化しても売上にそう大きな影響は無いのではないかと。さらにいうと、権利者系団体も違法ダウンロード刑事罰化に期待しているというより、この改正を足がかりにして現在最も音楽を楽しむため利用されているサービスであるYoutubeなどの動画共有サイト*6に何かしらの法規制や金銭面での対応の方を今後期待しているのではないかと、ふと思ったりしました。