半ばの判断は塞がれている

中国の古典、歴史書に「戦国策」という本があります。「蛇足」や「虎の威を借る狐」といった故事成語の元になった話も多いので知っている人も多いかとは思いますが、その中に戦国時代に魏の宰相を務めた恵施*1の話があります
老荘清談。荘子の道

恵子は恵王の下で十年宰相を努めたが秦から張儀がやって来た。張儀は秦・魏・韓の連合軍で楚・斉を討つと唱えた。この策に恵子は魏・楚・斉で同盟を結んで今は戦わず防備を固めることを説いた。魏では以前大敗した斉にわだかまりがあったのか群臣は皆、張儀主戦論に与したので、恵子は退けられた。退くに当たって恵王に言葉を残して去った。『戦国策』ではこのようだ「些細な事でも意見が割れて半ばするのが普通です。まして大事においてはなおさらでしょう。魏が他国と連合して戦をするのは重大事であるのに、群臣は皆賛成しました。それが正しいこととどれだけ明かか私は知りません。それなのになぜ群臣の意見は一致したのでしょうか。明らかでないことに一致をみたなら半ばの判断は塞がれているのです」。


同じような話が「韓非子」にもあります

Sonbu.com

秦の宰相であった張儀(ちょうぎ)*2は、魏を訪れて、秦、魏、韓の3ヶ国が連合して、斉と楚に対抗しようと言ってきた。これに対して、魏の宰相であった恵施(けいし)は、斉と楚と同盟を結んで、無益な戦いは止めようと言上した。そこで魏の昭王は、多くの臣下たちの前で、張儀と恵施に論争させた。その結果、魏の臣下や側近たちは、皆、張儀の意見が最もだと思い、恵施に味方する者は、一人もいなかった。この結果を受けて昭王は、秦、韓と連合して、斉と楚を攻めることにした。

 斉、楚への出兵が決まった夜のこと。恵施が昭王を訪ねて言った。

 「陛下、よくお考えください。全ての臣下が斉と楚を攻めた方が良いと考え、それが正しいのであれば、なんと有能な臣下が多いことでしょう。反対に、それが誤っているのであれば、なんと無能な臣下が多いことでしょう。そもそも陛下は、斉楚に出兵した方が良いかどうか迷われたからこそ、私と張儀に論争をさせて、臣下たちの意見を聞こうと考えられたのでしょう。本来、陛下がお迷いになられた程のことですから、臣下たちの意見も二分されて当然です。それなのに、全ての者が張儀の意見ばかりを採用して、私の意見を無視しました。これは偏に、衆議、つまり国の半分を失ったのと同じことです。陛下の耳目を塞ぐのと同じことです。よくよく気をつけなければならないことです。」


この話を読んだ後なんとなくネットの現状を思い浮かべてしまいました。2ちゃんねるのような掲示板でもブログでもある話題があってそれに対する意見が一方的に偏ることが多くなってると感じる、2ちゃんねるのニュース系は特にその傾向が強いかな。ネット上は別に結論を出す場所じゃないけれどある話題で一方的な意見が支配してしまっている状況は恵施が言う「判断が塞がれている」状態なのかもしれない

*1:または恵子。諸子百家の分類だと論理学派ともいえる「名家」の思想家でもある

*2:蘇秦と並ぶ縦横家の代表人物。連衡論者