オリンピックと世界陸上の結果から箱根駅伝の問題を考えてみる

先日箱根駅伝の予選会が行われましたが、この箱根駅伝はとにかく人気がある。それは視聴率を見てもあきらかで多くのスポーツの視聴率は現在苦戦してるのですが、そのような中でも常に25%前後の視聴率を出しています(箱根駅伝の各年度の視聴率はこちら)。その注目度の高さゆえ最近は様々な大学が注力しているようです
その一方箱根駅伝は問題点も多々指摘されています。特に日本男子が世界大会の長距離種目で結果を残せていない原因が箱根駅伝にあるという意見が近年主張されています。このあたりの問題点は
−箱根駅伝が日本男子長距離を世界からさらに遠ざける−
東京箱根間往復大学駅伝競走 箱根駅伝が抱える問題−wikipedia
が詳しいです。では実際箱根駅伝を走った選手がその後どのような結果を残しているのか?箱根駅伝の公式サイトには箱根駅伝に出場した選手でその後オリンピックと世界陸上競技選手権に出場した選手の結果一覧があるので見てみると
箱根駅伝公式Webサイト
箱根駅伝出身五輪出場一覧 <開催年順>
箱根駅伝出身 世界選手権出場一覧
はじめにオリンピックを見ると1920年アントワープ大会から2008年北京大会まで21大会*1で延べ82人の箱根駅伝出身者が出場しています。その出場選手の中で日本人で入賞以上の選手をピックアップしてみると

大会名 選手名(出身大学) 種目 結果
アムステルダムオリンピック1920年) 津田晴一郎(慶應義塾大学 マラソン 6位
ロサンゼルスオリンピック(1932年) 大木正幹(法政大学) 4×400Mリレー 5位
  津田晴一郎(慶應義塾大学 マラソン 5位
ベルリンオリンピック(1936年) 村社講平(中央大学 5000M・10000M 4位・4位
メルボルンオリンピック(1956年) 川島義明(日本大学 マラソン 5位
ロサンゼルスオリンピック1984年) 金井豊(早稲田大学 10000M 7位
バルセロナオリンピック(1992年) 谷口浩美日本体育大学 マラソン 8位
アテネオリンピック(2004年) 諏訪利成東海大学 マラソン 6位


次に世界陸上競技選手権。こちらは第1回大会のヘルシンキから第11回大会の大阪まで11大会で延べ42人の箱根駅伝出身者が出場しています。その中で同じく日本人で入賞者以上の選手をピックアップしてみると

開催地 選手名(出身大学) 種目 結果
第3回東京 谷口浩美日本体育大学 マラソン
第4回シュツットガルト 打越忠夫(順天堂大学 マラソン 5位
第7回セビリア 清水康次(大東文化大学 マラソン 5位
  佐藤信之(中央大学 マラソン
  藤田敦史駒澤大学 マラソン 6位
第10回ヘルシンキ 尾方剛山梨学院大学 マラソン
第11回大阪 諏訪利成東海大学 マラソン 7位
  尾方剛山梨学院大学 マラソン 5位
  大崎悟史山梨学院大学 マラソン 6位


まずはオリンピックでの成績。実は箱根駅伝出身の日本人でオリンピックのメダリストはまだ一人もいない、というか入賞者自体も多いとは言えない。特に近年の大会は本当に結果が残せない状況になってきている。それに対して世界陸上のほうはメダリストを3人輩出し入賞者もそこそこ出すなどそれなりに結果を残している。ただ世界陸上に関しては
世界陸上競技選手権大会 - Wikipedia

世界陸上競技選手権は発足から4年に一度開催であった1991年までは選手にとってオリンピックに並ぶ価値を持ち、数々の名勝負を演出してきた。しかし隔年開催になった1993年、前年度女子マラソンのランキング一位オルガ・マルコワが出場料を要求して出場を拒否するなど以降権威の失墜は甚だしく、現在では伝統あるヨーロッパ陸上選手権、コモンウェルスゲームズ(英連邦大会)を持つ欧州選手・アフリカ選手にとっては何の磁力もなく一賞金大会以上の意味を持っていない

とあるように他国の選手にとって世界陸上は特別な大会で無くなってきている反面、日本では注目度も高く特にマラソンはオリンピックの代表選考レースを兼ねているためそのモチベーションの差もあるのかもしれない

箱根駅伝の目的と改革案

そもそも箱根駅伝の目的は
箱根駅伝公式Webサイト FAQ

Q.どうして箱根駅伝は始まったのか?

A.箱根駅伝が誕生したのは、1920年(大正9)、今から84年も前のことである。
創設の原動力になったのは、マラソンの父として知られる金栗四らの「世界に通用するランナーを育成したい」との
思いだった。
金栗は、東京高師の学生時代に日本が初参加した1912年(明治45)のストックホルム五輪にマラソン代表として
出場したが、途中棄権に終わり、失意のまま帰国した。

となっている。以前はそういう育成の効果もあったのだろうが、特に近年のオリンピックの結果をみるとその効果は無くなってきてるんじゃないかと。その要因は結局箱根駅伝の人気、注目の度上昇により箱根駅伝でしか通用しない選手を育てる傾向になってきてることにあると思う。事実今回の予選会3位で箱根駅伝初出場を果たした上武大学

10キロの持ちタイム向上を狙うチームもあるが、上武大はあくまで予選会の距離である20キロを強化した
(上毛新聞10/17号より)

とあるように完全に箱根駅伝のみに絞った強化をしていることが伺える。おそらく他の大学も同じようなものでしょう。でこれは陸上の素人の考えなんだけど結局箱根駅伝区間距離はだいたい20キロ前後なのでその距離をいかに走るかという練習に特化してしまう。けど陸上の正式種目に20キロの距離の種目は無いし「駅伝」という種目も無い。陸上の種目の観点からみると箱根駅伝(駅伝自体も)は中途半端すぎる。そこで改革案を考えてみると
・一区間の距離を短縮する。
10キロ前後が理想か
・山登り、山下りのコースを止める。
通常の陸上の大会で山を登り下るコースを走ることは無いし
というのが個人的な案。山登り山下りを無くすと箱根駅伝の意味がないと言われそうですが。また他にもいろいろ改革案はあると思う。ただあまりに伝統と人気がある大会になってしまっているので思い切った変更なんてできないんだろうとも思ってしまう


あと最後に北京オリンピックのマラソン金メダリストで日本に6年間いたワンジルが駅伝について述べていた事を紹介しておきます

日本の"お家芸"だったマラソンでの惨敗に日本陸連・河野匡マラソン部長(47)は
「女子は戦う余地はある。でも男子は入賞が最大の目標になってくる。メダルなんて
軽々しく言えない」。ケニアエチオピア勢の身体能力の高さに、白旗を掲げるしか
なかった。

今大会の陸上は男子400メートルリレーで銅メダル獲得という歴史的快挙の裏で
ケガ人が続出。特にマラソンは男女ともに土壇場の時期に負傷→欠場者を出すなど
陸連の選手管理に疑問が投げかけられ、幹部の間でもトラブル続きだった。

そんな中、日本のマラソン界に物申す人物が現れた。2時間6分32秒の五輪新記録で
男子マラソンを制したワンジルだ。ケニアから留学生として来日し、6年間日本で
生活した男は「日本人は練習しすぎて疲れちゃってる。自分は練習量を少なくして
もらってきた」。

さらにワンジルは所属先のトヨタ自動車九州に五輪前、退職願を出していたことを
明かした上で「自分で(マラソンを)やりたい。実業団は駅伝があるからいやだ」。
日本の"駅伝ありき"の方針ではマラソンランナーは強くなれないとの持論を展開した。

長距離ランナーを目指す若い世代は学生の頃から駅伝を目標に練習する。確かに、
ニューイヤー駅伝箱根駅伝などは視聴率も高く、メディアに大々的に報じられるため
企業や学校にとっても宣伝効果は抜群。だが、そうした目先の利益や効果を優先する
体質が、マラソン界の人材育成ではマイナスに作用しているというわけだ。

"日本育ち"の金メダリストに痛いところを突かれてしまった日本陸連はどう対策を
練るのか。ロンドン五輪までの4年間はアッという間だ。


8月26日東京スポーツA版4面(発売8月25日)

*1:冬期オリンピックに出場した選手がいるため一つ大会数が多くなっている