2010年の世界の音楽産業動向

一般社団法人 日本レコード協会が発行している「THE RECORD」の2011年6月号にて毎年この時期に特集される「2010年の世界の音楽産業」が公開されました。今年もこの特集から2010年における世界の音楽産業の動向を見てみます。
※資料は一般社団法人 日本レコード協会|発行物にあるTHE RECORD 2011年6月号(PDF)より。
※最新の売上は【2017年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上動向を見てください。
※2008年〜2009年と2011年〜2016年の動向は以下を見てください。

2008年の世界の音楽産業動向
2009年の世界の音楽産業動向
2011年の世界の音楽産業動向
【2012年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2013年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2014年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2015年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上状況
【2016年】世界の音楽の売上高上位20ヶ国の売上動向

※各数字は後に訂正される可能性があります。

2010年の世界の音楽の売上

まず最初に世界の音楽の売上を見てみます。
※売上金額はレコード会社の収入ベースです。

2010年 2009年 前年比
パッケージ 104億4000万ド 121億6600万ドル −14.2%
音楽配信 46億4300万ドル 44億700万ドル +5.3%
権利収入 8億5100万ドル 8億1300万ドル +4.6%
合計 159億3300万ドル 173億8600万ドル −8.4%


売上金額の推移とメディア別の割合は以下のようになります。


世界の音楽の売上は引き続き減少傾向が続いています。ただこの要因の一つとしてパッケージに比べ比較的単価の安い音楽配信に比重が移ってきているという事もあるので、一概に売上が減少している=音楽が売れなくなっているという訳では無いとは思います。


2010年総売上上位20ヶ国の状況

次に音楽の売上上位20ヶ国の状況について見てみます。



アメリカと日本の売上シェアが1%の差(2009年は3%差)まで迫ってきています。ただアメリカに比べ日本のほうが売上の減少が少なかったのが要因なので何とも言えないところです。それと2010年は順位にかなり変動がありドイツがイギリスを抜いて3位に浮上。スペインがトップ10から陥落してブラジルがトップ10入り。全体的に売上が苦戦する国が多い中韓国とインドが売上を大きく伸ばし、それぞれ韓国が15位から12位、インドが17位から14位へと順位を上げています。また南アフリカノルウェーが上位20カ国に入ったのに対してロシアとデンマークが圏外になっています。


パッケージ、音楽配信、権利収入ごとの売上順

上記の売上上位20ヶ国を昨年と同じくパッケージ、音楽配信、権利収入の売上順ごとに並べ替えてみました。
※シェアは私が計算した数字ですので参考程度に見てください。

パッケージ 売上金額 シェア 音楽配信 売上金額 シェア 権利収入 売上金額 シェア
1 日本 28億8500万ドル 27.6% 1 アメリ 20億2900万ドル 43.7% 1 イギリス 1億1100万ドル 13.0%
2 アメリ 20億4900万ドル 19.6% 2 日本 9億7900万ドル 21.1% 2 日本 9400万ドル 11.0%
3 ドイツ 11億4300万ドル 10.9% 3 イギリス 3億4700万ドル 7.5% 3 ドイツ 9100万ドル 10.7%
4 イギリス 9億2000万ドル 8.8% 4 ドイツ 1億7800万ドル 3.8% 4 アメリ 9000万ドル 10.6%
5 フランス 6億4100万ドル 6.1% 5 フランス 1億4600万ドル 3.1% 5 フランス 7800万ドル 9.2%
6 オーストラリア 2億6700万ドル 2.6% 6 カナダ 1億1400万ドル 2.5% 6 オランダ 5600万ドル 6.6%
7 カナダ 2億6200万ドル 2.5% 7 オーストラリア 1億700万ドル 2.3% 7 インド 4000万ドル 4.7%
8 オランダ 1億8400万ドル 1.8% 8 韓国 9800万ドル 2.1% 8 スペイン 2800万ドル 3.3%
9 イタリア 1億7800万ドル 1.7% 9 インド 5400万ドル 1.2% 9 イタリア 2300万ドル 2.7%
10 ブラジル 1億7300万ドル 1.7% 10 ブラジル 3800万ドル 0.8% 10 カナダ 1900万ドル 2.2%
11 スイス 1億2900万ドル 1.2% 11 スウェーデン 3800万ドル 0.8% 11 オーストラリア 1900万ドル 2.2%
12 スペイン 1億2200万ドル 1.2% 12 スペイン 3700万ドル 0.8% 12 ブラジル 1800万ドル 2.1%
13 ベルギー 1億1800万ドル 1.1% 13 イタリア 3600万ドル 0.8% 13 ベルギー 1800万ドル 2.1%
14 南アフリカ 1億1500万ドル 1.1% 14 メキシコ 2900万ドル 0.6% 14 スウェーデン 1600万ドル 1.9%
15 メキシコ 1億ドル 1.0% 15 スイス 2600万ドル 0.6% 15 オーストリア 1300万ドル 1.5%
16 オーストリア 9300万ドル 0.9% 16 ノルウェー 2600万ドル 0.6% 16 ノルウェー 1100万ドル 1.3%
17 スウェーデン 8300万ドル 0.8% 17 オランダ 2100万ドル 0.5% 17 スイス 800万ドル 0.9%
18 韓国 8100万ドル 0.8% 18 オーストリア 1700万ドル 0.4% 18 南アフリカ 300万ドル 0.4%
19 ノルウェー 6900万ドル 0.7% 19 ベルギー 1400万ドル 0.3% 19 メキシコ 200万ドル 0.2%
20 インド 6500万ドル 0.6% 20 南アフリカ 600万ドル 0.1% 20 韓国 - -
* その他 7億6300万ドル 7.3% * その他 3億300万ドル 6.5% * その他 1億1300万ドル 13.3%
* 合計 104億4000万ドル 100.0% * 合計 46億4300万ドル 100.0% * 合計 8億5100万ドル 100.0%


2008年、2009年に続いて2010年もパッケージは日本、音楽配信アメリカ、権利収入はイギリスが首位になっています。そしていよいよアメリカはパッケージと音楽配信の売上の差がなくなってきており(パッケージ20億4900万ドル、音楽配信20億2900万ドル)、2011年はほぼ確実に音楽配信がパッケージを上回るかと思われます。そして売上上位10ヶ国のメディア別の割合は以下のようになっています。



音楽の売上上位20ヶ国における一人当たりの売上額

ついでにwikipedia国の人口順リスト - Wikipedia*1を元に売上上位20ヶ国の一人当たりの売上額も計算してみました。
※人口は本土と属領の合計の人口です。

国名 一人当たりの売上額 総売上額 2010年推計人口
1 日本 31.3ドル 39億5900万ドル 1億2653万5920人
2 イギリス 22.1ドル 13億7900万ドル 6251万2232人
3 ノルウェー 21.7ドル 1億600万ドル 488万3111人
4 スイス 21.1ドル 1億6200万ドル 766万4318人
5 オーストラリア 17.6ドル 3億9300万ドル 2226万8384人
6 ドイツ 17.0ドル 14億1200万ドル 8294万9541人
7 オランダ 15.4ドル 2億6100万ドル 1692万1165人
8 オーストリア 14.7ドル 1億2300万ドル 839万3644人
9 スウェーデン 14.5ドル 1億3600万ドル 937万9687人
10 ベルギー 14.0ドル 1億5000万ドル 1071万2066人
11 アメリ 13.3ドル 41億6800万ドル 3億1455万1246人
12 フランス 13.2ドル 8億6600万ドル 6547万6486人
13 カナダ 11.6ドル 3億9400万ドル 3401万6593人
14 スペイン 4.1ドル 1億8700万ドル 4607万6989人
15 イタリア 3.9ドル 2億3700万ドル 6055万848人
16 韓国 3.7ドル 1億7800万ドル 4818万3584人
17 南アフリカ 2.5ドル 1億2400万ドル 5013万2817人
18 ブラジル 1.2ドル 2億2900万ドル 1億9494万6470人
19 メキシコ 1.1ドル 1億3000万ドル 1億1342万3047人
20 インド 0.1ドル 1億5900万ドル 12億2451万4327人


パッケージと音楽配信のそれぞれの一人当たりの売上額は以下のようになります。

パッケージの一人当たりの売上額
国名 一人当たりの売上額 パッケージ売上額 2010年推計人口
1 日本 22.8ドル 28億8500万ドル 1億2653万5920人
2 スイス 16.8ドル 1億2900万ドル 766万4318人
3 イギリス 14.7ドル 9億2000万ドル 6251万2232人
4 ノルウェー 14.1ドル 6900万ドル 488万3111人
5 ドイツ 13.8ドル 11億4300万ドル 8294万9541人
6 オーストラリア 12.0ドル 2億6700万ドル 2226万8384人
7 オーストリア 11.1ドル 9300万ドル 839万3644人
8 ベルギー 11.0ドル 1億1800万ドル 1071万2066人
9 オランダ 10.9ドル 1億8400万ドル 1692万1165人
10 フランス 9.8ドル 6億4100万ドル 6547万6486人
11 スウェーデン 8.8ドル 8300万ドル 937万9687人
12 カナダ 7.7ドル 2億6200万ドル 3401万6593人
13 アメリ 6.5ドル 20億4900万ドル 3億1455万1246人
14 イタリア 2.9ドル 1億7800万ドル 6055万848人
15 スペイン 2.6ドル 1億2200万ドル 4607万6989人
16 南アフリカ 2.3ドル 1億1500万ドル 5013万2817人
17 韓国 1.7ドル 8100万ドル 4818万3584人
18 ブラジル 0.9ドル 1億7300万ドル 1億9494万6470人
19 メキシコ 0.9ドル 1億ドル 1億1342万3047人
20 インド 0.1ドル 6500万ドル 12億2451万4327人
音楽配信の一人当たりの売上額
国名 一人当たりの売上額 音楽配信売上額 2010年推計人口
1 日本 7.74ドル 9億7900万ドル 1億2653万5920人
2 アメリ 6.45ドル 20億2900万ドル 3億1455万1246人
3 イギリス 5.55ドル 3億4700万ドル 6251万2232人
4 ノルウェー 5.32ドル 2600万ドル 488万3111人
5 オーストラリア 4.81ドル 1億700万ドル 2226万8384人
6 スウェーデン 4.05ドル 3800万ドル 937万9687人
7 スイス 3.39ドル 2600万ドル 766万4318人
8 カナダ 3.35ドル 1億1400万ドル 3401万6593人
9 フランス 2.23ドル 1億4600万ドル 6547万6486人
10 ドイツ 2.15ドル 1億7800万ドル 8294万9541人
11 韓国 2.03ドル 9800万ドル 4818万3584人
12 オーストリア 2.03ドル 1700万ドル 839万3644人
13 ベルギー 1.31ドル 1400万ドル 1071万2066人
14 オランダ 1.24ドル 2100万ドル 1692万1165人
15 スペイン 0.80ドル 3700万ドル 4607万6989人
16 イタリア 0.59ドル 3600万ドル 6055万848人
17 メキシコ 0.26ドル 2900万ドル 1億1342万3047人
18 ブラジル 0.19ドル 3800万ドル 1億9494万6470人
19 南アフリカ 0.12ドル 6000ドル 5013万2817人
20 インド 0.04ドル 5400万ドル 12億2451万4327人


一人当たりの売上額だと日本がパッケージも音楽配信ともに首位になっています。日本の場合CDには再販制度があり、音楽配信は携帯の着うた、着うたフルが主流なため音楽の単価が比較的高めになっている事が要因の一つではないかと思います。



売上上位10ヶ国における音楽配信のフォーマット別売上の割合

売上の伸びが鈍化してはいますが依然として成長は続いている音楽配信。その音楽配信のフォーマット別の割合を見てみます。



特徴的なのが2010年にスペインに代わりトップ10入りしたブラジル。他の国と全く違いsubscription(定額制の音楽配信サービス)が音楽配信の売上の6割を占めています。ここまでsubscription(定額制の音楽配信サービス)が普及している国があったのは非常に驚きました。もしかしたら中堅国や発展途上国はsubscription(定額制の音楽配信サービス)が意外と普及しているのかもしれません。


雑感

2010年は韓国とインドが大きく売上を伸ばしましたが、その2国についてちょっと考えてみました。
まず韓国についてですが、こんな一文が特集に記載されています。

韓国は、違法行為撲滅のために、3ストライク法の導入や、その他法的環境の改善などによって、2010年の音楽売上高は前年比11.7%増と、2009年の10.4%増から引き続き成長した。

これを見ると法規制の強化が音楽の売上を伸ばすために有用な感じがします。しかし韓国のスリーストライク法が施行されたのとほぼ同じ時期に法規制を強化したスウェーデン*2を見ると、2009年は前年比12%増と大きく売上を伸ばしたものの2010年は7%減と反落しています。音楽の売上にとって法規制が有用なのかどうなのか、まだ結論を出すのは難しいのかなと思います。


そしてインドですが2009年は前年比2%増でしたが2010年は17%増と大きく売上を伸ばしました。背景には高い経済成長があるかと思いますが、一人当たりの売上額を見るとまだ多くの人が音楽にお金を使える状況でも無いようです。とはいえインドは人口が多く、さらに今後も人口の増加が続くと見られているため伸び代が大きいとも言えるわけで、長期的な視点で見た場合かなり大きな音楽市場に化ける可能性があるのではないかと個人的に思っています。