傷病者の救助と道路交通法

人命救助して罰金1万8000円 : この世に家がある限り

彼は路上で倒れて歩けなくなっている人を見つけ、車を降りて、その人を助けた。鎌倉の駅前近く、駐停車禁止でもない場所で、多くの人がその状況を見ている。ところが、駐車監視員はそれを駐車違反だといって罰金1万8000円なりを言い渡した。向こうの言い分はこうだ。決まりは決まり、ハザードつけようが、心肺蘇生しようが、関係ない。車を放置したあなたが悪い、それが法律だ。気に入らないなら裁判だな、とも。警察は運が悪かったなと。

この話についてですが、以前こちらの記事を書く時に道路交通法(以下道交法)関連について少し調べたことがあるので、本当だと仮定して何故駐車違反の違反切符を切ったのかを法律の素人なりに考えてみました。

道路交通法における駐停車禁止と駐車禁止

まず、最初に気になったのがこの部分。

鎌倉の駅前近く、駐停車禁止でもない場所で、多くの人がその状況を見ている。ところが、駐車監視員はそれを駐車違反だといって罰金1万8000円なりを言い渡した。

当たり前の話ですが駐停車禁止では無い場所で駐車していても違反になる事はありません。でも駐車監視員に駐車違反だと指摘され、最終的に警察に違反切符を切られている*1。これおそらく当事者の人が駐車禁止の場所を駐停車禁止、駐車禁止の標識がある場所のみが駐車禁止と勘違いしているのではないかと。標識がある駐停車禁止の場所を基本的に「指定駐停車禁止場所」というのですが、他にも道交法で定められている「法定駐停車禁止場所」というのがあります。この場所は道交法第44条と第45条に記述されていて、条文は以下のようになります。
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(停車及び駐車を禁止する場所)
第四十四条 車両は、道路標識等により停車及び駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない。ただし、乗合自動車又はトロリーバスが、その属する運行系統に係る停留所又は停留場において、乗客の乗降のため停車するとき、又は運行時間を調整するため駐車するときは、この限りでない。
一  交差点、横断歩道、自転車横断帯、踏切、軌道敷内、坂の頂上付近、勾配の急な坂又はトンネル
二  交差点の側端又は道路のまがりかどから五メートル以内の部分
三  横断歩道又は自転車横断帯の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分
四  安全地帯が設けられている道路の当該安全地帯の左側の部分及び当該部分の前後の側端からそれぞれ前後に十メートル以内の部分
五  乗合自動車の停留所又はトロリーバス若しくは路面電車の停留場を表示する標示柱又は標示板が設けられている位置から十メートル以内の部分(当該停留所又は停留場に係る運行系統に属する乗合自動車、トロリーバス又は路面電車の運行時間中に限る。)
六  踏切の前後の側端からそれぞれ前後に十メートル以内の部分
   (罰則 第百十九条の二第一項第一号、同条第二項、第百十九条の三第一項第一号、同条第二項)

※具体的な駐停車禁止の場所は違法駐車追放対策:警視庁 駐停車禁止の場所(道路交通法第44条)を見てください。

(駐車を禁止する場所)
第四十五条  車両は、道路標識等により駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、駐車してはならない。ただし、公安委員会の定めるところにより警察署長の許可を受けたときは、この限りでない。
一  人の乗降、貨物の積卸し、駐車又は自動車の格納若しくは修理のため道路外に設けられた施設又は場所の道路に接する自動車用の出入口から三メートル以内の部分
二  道路工事が行なわれている場合における当該工事区域の側端から五メートル以内の部分
三  消防用機械器具の置場若しくは消防用防火水槽の側端又はこれらの道路に接する出入口から五メートル以内の部分
四  消火栓、指定消防水利の標識が設けられている位置又は消防用防火水槽の吸水口若しくは吸管投入孔から五メートル以内の部分
五  火災報知機から一メートル以内の部分
2  車両は、第四十七条第二項又は第三項の規定により駐車する場合に当該車両の右側の道路上に三・五メートル(道路標識等により距離が指定されているときは、その距離)以上の余地がないこととなる場所においては、駐車してはならない。ただし、貨物の積卸しを行なう場合で運転者がその車両を離れないとき、若しくは運転者がその車両を離れたが直ちに運転に従事することができる状態にあるとき、又は傷病者の救護のためやむを得ないときは、この限りでない。
3  公安委員会が交通がひんぱんでないと認めて指定した区域においては、前項本文の規定は、適用しない。
   (罰則 第一項及び第二項については第百十九条の二第一項第一号、同条第二項、第百十九条の三第一項第一号、同条第二項)

※具体的な駐車禁止の場所は違法駐車追放対策:警視庁 駐車禁止の場所(道路交通法第45条第1項)を見てください。


この話では罰金(反則金)が18,000円となっています。現在、駐停車に関する反則行為において18,000円の反則金が課せられるのは、普通車で時間制限駐車区間以外の第44条にある駐停車禁止場所に駐停車していた場合*2になります。駐車した場所が「鎌倉の駅前近く」と書かれていますので、道交法第44条の「三  横断歩道又は自転車横断帯の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分」か、「五  乗合自動車の停留所又はトロリーバス若しくは路面電車の停留場を表示する標示柱又は標示板が設けられている位置から十メートル以内の部分(当該停留所又は停留場に係る運行系統に属する乗合自動車、トロリーバス又は路面電車の運行時間中に限る。)」に駐車していた可能性があるのではないかと思います。
そして、この道交法第44条が重要なポイントになります。


適用除外となる事例

次に、「彼は路上で倒れて歩けなくなっている人を見つけ、車を降りて、その人を助けた。」とあります。このような傷病者を救助するために駐停車した場合、道交法第44条と第45条が適用除外になるのかどうかですが、これは都道府県ごとの道路交通規則(もしくは道路交通法施行細則)を見る必要があります*3
続きの記事であるhttp://blog.livedoor.jp/tokyojohodo/archives/7262226.htmlでは埼玉県の例を挙げていますが、埼玉県の道路交通法施行細則にはこのように記述されています。
○埼玉県道路交通法施行細則

(6) 駐停車禁止の交通規制

除外する車両

ア 前記(5)の項のアに掲げる車両
イ 前記(2)の項のアに掲げる車両及び当該責務の遂行のため現に停止を求められた車両
ウ 前記(2)の項のイに掲げる車両
エ 両急病人の搬送、救護等、人の生命又は身体に係る緊急やむを得ない理由により使用中の車
オ 前記(2)の項のカ(ア)に掲げる車両
カ 狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)に基づき、犬の捕獲のために使用中の車両
キ 放置車両確認機関が確認事務を行うために使用中の車両
ク 前記(2)の項のオに掲げる車両
ケ 次に掲げる車両で、公安委員会が交付する標章を掲示しているもの
(ア) 電気、ガス、上下水道、電信、電話又は交通安全施設について緊急修復を要する工事のために使用中の車両 別記様式第1の2の標章
(イ) 執行官法(昭和41年法律第111号)に基づき、執行官が強制執行等を迅速に行う必要がある場合に、その執行のために使用中の車両 別記様式第1の3の標章
(ウ) 専ら郵便法(昭和22年法律第165号)に規定する通常郵便物の集配及び電気通信事業法に基づく電報の配達のために使用中の車両 別記様式第1の4の標章

これだと、「両急病人の搬送、救護等、人の生命又は身体に係る緊急やむを得ない理由により使用中の車」は駐停車禁止の交通規制から除外される車両となります。そして、「駐停車禁止の交通規制」と書かれている事から道交法第44条と第45条両方を指していると思われますので、埼玉県なら傷病者を救助するために第44条の駐停車禁止、第45条にある駐車禁止の場所に駐車していたとしても問題は無かったと思います。


しかし、神奈川県*4道路交通法施行細則だとこうなっています。
○神奈川県道路交通法施行細則

(4) 法第45条第1項に規定する駐車禁止並びに法第49条の3第2項又は第4項に規定する時間制限駐車区間の規制及び法第49条の4に規定する高齢運転者等専用時間制限駐車区間の規制の対象から除く車両
ア 政令第13条第1項に規定する自動車で、緊急の用務に使用中のもの
イ アに掲げる自動車以外の車両で、防災、急病人の救護等緊急やむを得ない用務に使用中のもの
ウ 犯罪の捜査のため使用中の車両又は犯罪の予防、交通の取締りその他の警察の責務の遂行のため使用中の車両及び当該目的のため現に停止を求められている車両
エ 政令第14条の2に規定する道路維持作業用自動車で、当該用務に使用中のもの
オ 公職選挙法に基づく選挙運動用又は政治活動用の車両で、街頭演説又は街頭政談演説に使用中のもの
カ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく一般廃棄物収集のため市町村(市町村から委託を受けたものを含む。)が使用中の車両
キ 火災の予防、消防の設備の維持管理等のため使用中の消防用自動車
ク 前号キに掲げる車両で、駐車禁止除外指定車の標章(第1号様式の2)を掲出しているもの
ケ 次に掲げる歩行が困難な者が現に使用中の車両で、駐車禁止除外指定車の標章(第1号様式の3。他の都道府県公安委員会の交付に係るものを含む。)を掲出しているもの
(ア) 身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)に基づく身体障害者手帳の交付を受けている者で、別表第1の左欄に掲げる障害の区分に応じ、それぞれ同表の中欄に掲げる身体障害者福祉法施行規則(昭和25年厚生省令第15号)別表第5号に規定する障害の級別に該当する障害を有するもの
(イ) 戦傷病者特別援護法(昭和38年法律第168号)に基づく戦傷病者手帳の交付を受けている者で、別表第1の左欄に掲げる障害の区分に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる恩給法(大正12年法律第48号)別表第1号表ノ2に規定する重度障害の程度に該当する障害を有するもの
(ウ) 児童相談所又は知的障害者更生相談所の判定により知的障害者とされた者で、県又は市から療育手帳等の交付を受けているもののうち、重度の障害を有する者
(エ) 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)に基づく精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者のうち、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号)第6条第3項に規定する1級の障害を有するもの(障害者自立支援法施行規則(平成18年厚生労働省令第19号)第36条第3号に規定する精神通院医療に係る自立支援医療費の支給を受けている者に限る。)
(オ) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づく小児慢性特定疾患児手帳その他これに類するものの交付を受けている者のうち、児童福祉法第21条の5の規定に基づき厚生労働大臣が定める慢性疾患及び当該疾患ごとに厚生労働大臣が定める疾患の状態の程度(平成17年厚生労働省告示第23号)第8表に規定する色素性乾皮症の認定を受けている

この話だと「防災、急病人の救護等緊急やむを得ない用務に使用中のもの」に当てはまると思いますが、重要な点は適用除外となるのが「法第45条第1項に規定する駐車禁止並びに法第49条の3第2項又は第4項に規定する時間制限駐車区間の規制及び法第49条の4に規定する高齢運転者等専用時間制限駐車区間の規制の対象から除く車両」であり、道交法第44条は適用除外では無いという事
つまり、神奈川県だと傷病者を救助するために駐車していた場所が道交法第45条1項の駐車禁止の場所なら適用除外となり問題は無い。しかし、道交法第44条にある駐停車禁止の場所に駐車していた場合は適用除外とはならず違反になる。だから、傷病者を救助するために駐車していたのに、駐車監視員が駐車違反を指摘し警察が駐車違反の違反切符を切ったのは、上記反則金の金額からして道交法第44条の法定駐停車禁止場所に駐車していたためなのではないかと。私としてはそう考えています。

神奈川県で起きた他の事例とお願い

ちなみに、神奈川県ではパトカーが道交法第44条の法定駐停車禁止場所に駐車していて、駐車違反の違反切符を切られた事があります。
※ニュース記事がリンク切れのためデジタルわかめ: パトカーの駐車の件での記事より参照。

読売新聞 08/05/27記事
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080527-OYT1T00020.htm
空き巣捜査中、パトカーが駐車違反…神奈川県警金沢署
パトカーで空き巣の現場に駆け付けた神奈川県警金沢署地域課の署員が、道路交通法違反(駐停車禁止)で、同署から反則切符(青切符)を交付されていたことがわかった。署員は、反則金(1万8000円)を支払ったという。
 同署などによると、署員は今年5月20日午前11時10分ごろから約30分間、同僚と2人で空き巣の被害に遭った横浜市金沢区のマンションにパトカーで向かい、近くの交差点内に赤色回転灯を点灯させずにパトカーを止めていたという。
 付近の住民からの通報で、別の同署員が駆け付け、反則切符を交付した。道交法などでは、パトカーなどの緊急自動車は、指定駐車禁止場所と呼ばれる標識や標示のある場所で駐車しても交通違反にはならないと定めている。
 しかし、交差点や歩道などの法定駐車禁止場所では、事故で交通整理を余儀なくされている場合などを除き、駐車違反が適用される。同署の高橋秀治副署長は「公務中とはいえ、配慮に欠けたことは遺憾に思う」と話している。

(2008年5月27日03時11分 読売新聞)

過去にもあります。日刊スポーツ 08/03/19付けの記事
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20080319-337438.html

それと、最初に書きましたが私は法律の専門家では無く、道交法関連の全ての条文に目を通している訳でも無いので、この考えが間違っている可能性もあります。ですので、この件について興味が湧いた人は是非とも道交法及びその関連法律などをご自分で調べて考えてみる事をおすすめいたします。

*1:駐車監視員が違反切符を切る事はありません。

*2:反則行為の種別及び反則金一覧表 :警視庁

*3:ちなみに第45条2項にある「傷病者の救護のためやむを得ないときは、この限りでない。」というのは>「車両は、第四十七条第二項又は第三項の規定により駐車する場合に当該車両の右側の道路上に三・五メートル(道路標識等により距離が指定されているときは、その距離)以上の余地がないこととなる場所においては、駐車してはならない」が適用外になるだけで、44条及び45条1項が適用外になる訳では無いと思われます。

*4:東京都などいくつかの自治体もほぼ同じような条文になっている。