オリンピックの「競技」、「種別」、「種目」の違いについて

レスリングがオリンピックから除外候補となり話題になっていますが、この件について新聞・テレビなどの報道や、2ちゃんねるTwitterなどのネット反応を見ていてちょっと気になっていることがあります。それはオリンピックの「競技」、「種別」、「種目」の区別が曖昧なことです。そこでオリンピックにおいて競技、種別、種目がどのように違うのかをオリンピック憲章を元に見てみました。


オリンピック憲章における「競技」、「種別」、「種目」の定義

まずオリンピック憲章においては「競技」、「種別」、「種目」を以下のように定義しています。
JOC - オリンピズム | オリンピック憲章オリンピック憲章 Olympic Charter 2011年版・日本語(PDF)72Pより。
※IF:International Federations(国際競技連盟)の略称。

45 オリンピック競技大会のプログラム
2. プログラムは競技、種別、種目で構成される。競技とは、規則 46 付属細則 1 と規則 46 付属細則 2 に記載された IF が統轄する競技を指す。種別とは、競技の一部門で、一つもしくはいくつかの種目からなる。種目とは、競技またはその種別における競争で、結果として順位を生むものであって、メダルや賞状の授与のもととなる。

これだけだとちょっとわかりづらいので、個別に見てみます。


オリンピックにおける「競技」

最初にオリンピック憲章において、

競技とは、規則 46 付属細則 1 と規則 46 付属細則 2 に記載された IF (国際競技連盟)が統轄する競技を指す。

と定義されている"競技"(英語:sports)夏季オリンピックではロンドンオリンピック時点で26競技となっています。
※括弧内は各国際競技連盟の略称です。

競技名 統括する国際競技連盟
1 陸上 国際陸上競技連盟(IAAF)
2 水泳 国際水泳連盟FINA
3 サッカー 国際サッカー連盟FIFA
4 テニス 国際テニス連盟ITF
5 ボート 国際ボート連盟(FISA
6 ホッケー 国際ホッケー連盟(FIH)
7 ボクシング 国際ボクシング協会(AIBA)
8 バレーボール 国際バレーボール連盟FIVB
9 体操 国際体操連盟(FIG)
10 バスケットボール 国際バスケットボール連盟FIBA
11 レスリン 国際レスリング連盟(FILA)
12 セーリング 国際セーリング連盟(ISAF
13 ウェイトリフティング 国際ウエイトリフティング連盟(IWF)
14 ハンドボール 国際ハンドボール連盟(IHF)
15 自転車 国際自転車競技連合UCI
16 卓球 国際卓球連盟(ITTF)
17 馬術 国際馬術連盟(FEI)
18 フェンシング 国際フェンシング連盟(FIE)
19 柔道 国際柔道連盟(IJF)
20 射撃 国際射撃連盟(ISSF)
21 近代五種 国際近代五種連合(UIPM)
22 カヌー 国際カヌー連盟(ICF
23 アーチェリー 国際アーチェリー連盟(WA)
24 バドミントン 国際バドミントン連盟IBF
25 テコンドー 世界テコンドー連盟WTF
26 トライアスロン 国際トライアスロン連合(ITU

オリンピックにおける「種別」

次に"種別"(英語:disciplines)。オリンピック憲章においては、

種別とは、競技の一部門で、一つもしくはいくつかの種目からなる。

と定義されていて、基本的に1競技1種別なのですがロンドンオリンピック時点では水泳、カヌー、自転車、馬術、体操、バレーボール、レスリンに複数の種別があります。そのため現時点での夏季オリンピックの総種別数は39になります。

水泳競技の種別

・飛込
・競泳
・シンクロナイズドスイミング
水球

カヌー競技の種別

・スプリント
スラローム

自転車競技の種別

・BMX
・マウンテンバイク
・ロードレース
・トラック

体操競技の種別

・体操
・新体操
・トランポリン

バレーボール競技の種別

・バレーボール(インドア)
・ビーチバレー

レスリング競技の種別

グレコローマン
・フリースタイル



ただ、この種別は競技や種目と一緒にされることが多いため、種別という言葉自体ほとんど使われる事が無いのが現状かなと思います。


オリンピックにおける「種目」

最後に"種目"(英語:events)ですがオリンピック憲章の定義は、

種目とは、競技またはその種別における競争で、結果として順位を生むものであって、メダルや賞状の授与のもととなる。

となっていて、陸上競技を例にすると男子100m走、女子100m走、男子マラソン、女子マラソンといったものが種目になります。以下はロンドンオリンピックにおける各競技の種目数になります。

ロンドンオリンピックの競技ごとの種目数

※種目数はロンドンオリンピック2012 実施競技・種目比較 - JOCより。
※混合はテニスやバドミントンのミックスダブルスのように男女混合で行う種目。共通は男女の区別が無い競技(馬術のみ)の種目になります。

競技名 種目数 (男) (女) (混合・共通)
1 陸上 47 24 23 -
2 水泳 46 22 24 -
3 サッカー 2 1 1 -
4 テニス 5 2 2 1
5 ボート 14 8 6 -
6 ホッケー 2 1 1 -
7 ボクシング 13 10 3 -
8 バレーボール 4 2 2 -
9 体操 18 9 9 -
10 バスケットボール 2 1 1 -
11 レスリン 18 14 4 -
12 セーリング 10 6 4 -
13 ウェイトリフティング 15 8 7 -
14 ハンドボール 2 1 1 -
15 自転車 18 9 9 -
16 卓球 4 2 2 -
17 馬術 6 - - 6
18 フェンシング 10 5 5 -
19 柔道 14 7 7 -
20 射撃 15 9 6 -
21 近代五種 2 1 1 -
22 カヌー 16 11 5 -
23 アーチェリー 4 2 2 -
24 バドミントン 5 2 2 1
25 テコンドー 8 4 4 -
26 トライアスロン 2 1 1 -
総種目数 302 162 132 8

それでレスリングが除外候補になった件について戻るのですが、この件はロンドンオリンピックで実施された26の競技(中核競技)の中から一つを除外候補としてIOCの理事会において決定したという話です。
そのため対象となるのは「競技」であって「種別」や「種目」では無いという事です。ですので、例えば是非は別にして、「レスリングではなく近代五種かテコンドーを除外候補とするべきでは?」という意見は近代五種とテコンドーはオリンピックの競技であるのでよいのですが、「レスリングではなくトランポリンかロードレースを除外候補とするべきでは?」という意見は、トランポリンやロードレースは競技ではなく種別になるため的外れな意見になってしまいます。
また、「正式競技」「正式種目」という言葉を見かけたり、聞いたりします。これも「野球・ソフトボールを正式競技に!」とか「空手を正式競技に!」というならわかるのですが、「野球・ソフトボールを正式種目に!」とか「空手を正式種目に!」だとオリンピック憲章の定義からするとちょっとおかしな言い方になってしまいます。もっとも、一般の人以外にもスポーツを専門にする記者やジャーナリストでも「正式競技」と「正式種目」を特に使い分けない人もいるため気にする必要もないのかもしれませんが、個人的には気になってしまうところです。