ファイル共有ソフトはゲームソフトの売上に影響を与えたのか?について考えてみました

winny金子氏の死に際して

最近追悼の記事が多く出ているが、どうしてもモヤモヤするので吐き出させてください。

私は経歴15年くらいのゲーム開発者なのですが、winnyは非常に迷惑なソフトでした。

具体的にどういうことが起きたかというと、R4が流行し始めて5万本くらい売れていたIPもののソフト(ゲーセンの移植とか漫画のゲーム化とかあたりをイメージしてください)の売り上げが極端に下がりました。

そういったソフトはだいたい続編を出しても1〜2万本増減するくらいなのですが、winny、R4流行後は5万→1万程度になることが多かったです。

この辺りのソフトは大きな利益を生まないまでも確実な利益を見込めるタイトルだったので会社に与えるダメージは大きかったですね。

上記はてな匿名ダイアリーの記事が話題になっていましたが、では実際Winnyやshareなどのファイル共有ソフトがゲームソフトの売上に影響を与えたのかどうか?そのあたりを一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(以下ACCSの「ファイル共有ソフト利用実態調査」の報告書等から考えてみました。



R4などのマジコンの流通が大きくなり始めたのは2007年ごろかと思うのですが、2007年のファイル共有ソフト利用実態調査では「ダウンロード経験のあるファイル」にゲームソフトの項目が無いため2008年からのさまざな調査結果を見てみます。
※各数字はACCSの以下の調査報告書より参照。
・2008年:第7回「ファイル共有ソフト利用実態調査」 | 調査報告書 | 活動報告 | ACCSアンケート調査概要(PDF)クローリング調査概要(PDF)
・2009年:第8回「ファイル共有ソフト利用実態調査」 | 調査報告書 | 活動報告 | ACCSアンケート調査概要(PDF)クローリング調査概要(PDF)
・2010年:第9回「ファイル共有ソフト利用実態調査」 | 調査報告書 | 活動報告 | ACCSクローリング調査概要(PDF)一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構CODAファイル共有ソフトの利用に関する調査報告書(速報版)(PDF)
・2011年:第10回「ファイル共有ソフト利用実態調査」 | 調査報告書 | 活動報告 | ACCSアンケート調査概要(PDF)クローリング調査概要(PDF)
・2012年:「ファイル共有ソフトの利用実態調査(クローリング調査)」結果 | 活動報告 | ACCSクローリング調査概要(PDF)※現時点では2012年はクローリング調査のみ公開されています。
※各数字は後に訂正される可能性があります。

ファイル共有ソフトの基本的な利用状況のデータ

最初に前提となるいくつかの調査結果になります。

ファイル共有ソフトの現在利用者の割合

※対象はインターネットユーザー
※2010年と2011年は15歳以上の割合になります。

現在利用者
2008年 10.3%
2009年 9.1%
2010年 5.8%
2011年 4.7%
クローリング調査によるノード数*1

※調査日時は以下のようになります
・2008年:2008年9月19日17:00〜2008年9月20日17:00(24時間)
・2009年:2009年10月2日17:00〜2009年10月3日17:00(24時間)
・2010年:2010年12月17日17:00〜2010年12月18日17:00(24時間)
・2011年:第1回 2011年11月25日17:00〜11月26日17:00(24時間)。第2回 2012年3月2日17:00〜3月3日17:00(24時間)
・2013年:2013年1月18日17:00〜2013年1月19日17:00(24時間)
※ノード数は実際に収集したノード数ではなく、全数の推定値になります。
※2009年は調査期間中にWinnyで偽キーの大量配布の影響でノード数の推定が困難であったため、Winnyのノード数は算出されていません。

Winny share Perfect Dark
2008年 約19万台 約21〜22万台 *
2009年 * 約21〜22万台 *
2010年 約6万台 約13万台 約5.6万台
2011年 約3.4万台 約9.2万台 約4.9万台
2013年 約2万台 約5.9万台 約3.4万台
主に利用しているファイル共有ソフトの割合(現在利用者)

Winnyに関してはWinnyPの利用者も含まれます。

2008年 2009年 2010年 2011年
1 Winny 28.4% 1 Winny 23.1% 1 Winny 27.9% 1 Winny 34.8%
2 Limewire 18.3% 2 Cabos 19.0% 2 Cabos 17.9% 2 Cabos 18.1%
3 Cabos 15.1% 3 Limewire 16.3% 3 BitTorrent 15.0% 3 BitTorrent 18.0%
4 WinMX 10.3% 4 BitTorrent 14.5% 4 Limewire 13.0% 4 share 10.7%
5 share 10.2% 5 share 9.6% 5 share 10.0% 5 Limewire 7.2%
6 BitTorrent 8.0% 6 WinMX 8.7% 6 WinMX 7.1% 6 WinMX 6.0%
7 Freenet 3.8% 7 Freenet 1.7% 7 PerfectDark 1.9% 7 PerfectDark 1.9%
8 kazaa 0.5% 8 PerfectDark 1.4% 8 Azureus 0.9% 8 eMule 0.9%
9 PerfectDark 0.5% 9 eMule 1.4% 9 eMule 0.7% 9 Azureus 0.9%
その他 4.8% 10 Azureus 0.5% 10 shareaze 0.5% 10 edonkey2000 0.5%
11 shareaze 0.3% 11 edonkey2000 0.1% 11 shareaze 0.4%
12 kazaa 0.3% その他 4.9% その他 0.7%
13 edonkey2000 0.3%
その他 3.0%

ファイル共有ソフトにおける「ゲームソフト」のダウンロード状況

そして、ファイル共有ソフトにおけるゲームソフトのダウンロード状況ですが、まずダウンロード経験があるファイルのジャンル(現在利用者を対象)はこうなっています。

ダウンロード経験のあるファイルの種類
2008年 2009年 2010年
1 音楽ファイル(日本) 77.4% 1 音楽ファイル(日本) 71.7% 1 音楽ファイル(日本) 67.8%
2 音楽ファイル(海外) 41.2% 2 音楽ファイル(海外) 42.0% 2 音楽ファイル(海外) 39.5%
3 映画(日本) 35.1% 3 映画(日本) 33.8% 3 アダルト 26.3%
4 映画(海外) 31.4% 4 映画(海外) 31.8% 4 映画(日本) 23.5%
5 アニメ(日本) 28.1% 5 アニメ(日本) 30.4% 5 映画(海外) 22.0%
6 アダルト 27.5% 6 アダルト 26.4% 6 日本のTVアニメ 13.3%
7 漫画・書籍 18.6% 7 漫画・書籍 17.8% 7 日本のアニメ映画 10.9%
8 ゲームソフト 17.2% 8 ゲームソフト 17.3% 8 ゲームソフト 10.8%
9 テレビドラマ(日本) 16.6% 9 テレビドラマ(日本) 15.0% 9 テレビドラマ(日本) 10.7%
10 ミュージッククリップ 16.6% 10 写真集・画像集 14.6% 10 写真集・画像集 9.8%
11 写真集・画像集 11.2% 11 ミュージッククリップ 13.3% 11 ビジネスソフト 9.5%
12 ビジネスソフト 9.6% 12 テレビドラマ(海外) 11.9% 12 コミック・漫画 9.0%
13 テレビドラマ(海外) 8.5% 13 ビジネスソフト 10.9% 13 ミュージッククリップ 8.6%
14 その他のテレビ番組 7.6% 14 その他のテレビ番組 8.5% 14 テレビドラマ(海外) 8.0%
15 情報ファイル 5.2% 15 アニメ(海外) 6.8% 15 その他のテレビ番組 7.6%
16 アニメ(海外) 5.2% 16 その他の画像 7.3%
17 日本のOVA 4.8%
18 Vシネマ 4.0%
19 アニメ(海外) 3.8%
20 その他の書籍 3.6%


2011年は「過去1年間にファイル共有ソフトでダウンロードしたファイルのジャンル」という質問項目になっていて、ジャンル分けも細分化されており以下のようになっています。

2011年
1 音楽ファイル(日本) 32.2%
2 テレビドラマ(日本) 32.0%
3 海外の映画 19.5%
4 音楽ファイル(海外) 19.4%
5 日本のTVアニメ・特撮 17.4%
6 日本の映画 16.8%
7 バラエティ・お笑い(日本) 11.7%
8 テレビドラマ(海外) 11.6%
9 音楽番組(日本) 10.1%
10 ミュージッククリップ 7.6%
11 コミック・漫画 7.5%
12 ライブ・コンサート映像 7.5%
13 スポーツ(日本) 7.4%
14 ゲームソフト 6.1%
15 劇場用アニメ 5.9%
16 情報番組・ドキュメンタリー 5.0%
17 ビジネスソフト 4.5%
18 アニメ(海外) 4.4%
19 写真集・画像集 3.2%
20 MAD動画 2.7%
21 海外の音楽番組 2.6%
22 書籍 1.9%
23 その他のソフトウェア 1.7%
24 その他の劇場用動画 1.4%
25 その他の日本のテレビ番組 1.0%
26 その他の海外のテレビ番組 1.0%
27 その他の音楽関連動画 1.0%
28 映画・劇場用アニメの予告編 0.9%
29 その他の書籍・画像ファイル 0.5%
その他のファイル 6.0%
ゲームソフトをダウンロードするために利用したファイル共有ソフト

次にゲームソフトをダウンロードするためにどのファイル共有ソフトを利用したのか?というのが以下のようになります。
※対象はファイル共有ソフトの現在利用者。
※2011年のアンケート調査にはその事関する調査項目が無いため除外。

2008年 2009年 2010年
1 BitTorrent 29.9% 1 BitTorrent 28.0% 1 BitTorrent 22.2%
2 Winny 22.1% 2 share 27.5% 2 share 14.0%
3 WinMX 15.3% 3 Winny 19.1% 3 WinMX 8.6%
4 share 12.5% 4 WinMX 16.3% 4 Winny 8.0%
5 Cabos 10.1% 5 Limewire 9.4% 5 Cabos 4.4%
6 Limewire 7.0% 6 Cabos 8.9% 6 Limewire 4.0%
過去1年間にダウンロードしたゲームソフトファイル数

最後に過去1年間ダウンロードしたゲームソフトのファイル数になります。

2008年 2009年 2010年
1〜10ファイル 10.4% 8.0% 7.5%
11〜50ファイル 5.2% 4.0% 1.4%
51ファイル以上 1.7% 2.2% 0.6%
なし 82.8% 84.9% 90.6%

2011年はジャンルごとの過去1年間にダウンロードしたファイルの平均と最大数という形式になっていてゲームソフトは平均数:1.43ファイル。最大数:1000ファイルとなっています。
参考としてダウンロードの経験があるファイルで最も多い「音楽ファイル(日本)」過去1年間のダウンロードしたファイル数はこうなっています。

過去1年間のダウンロードした「音楽ファイル(日本)」のファイル数
2008年 2009年 2010年
1〜10ファイル 35.1% 28.1% 35.0%
11〜50ファイル 26.8% 22.5% 19.5%
51ファイル以上 15.5% 18.7% 11.1%
なし 22.6% 30.7% 34.4%

・2011年 平均数:11.97ファイル。最大数:1000ファイル。


日本のファイル共有ソフトにおいて最も人気と需要があるのが音楽ファイル、その次が動画系のファイル。ゲームソフトはその次くらいでそれほど大きな人気・需要があるジャンルという訳ではありません。これは基本的にダウンロードすればすぐに聞いたり見たり出来る音楽や動画と違い、ゲームソフトの場合、特にコンシュマーゲーム機に言えることですがゲームのROMをダウンロードしてもそれを動かすためにマジコンのような専用機器やCFWの導入などある程度必要な物や知識がいる事が理由の一つかなと思います。


ゲームソフトの売上に影響を与えた要因

さて、最初に戻りますがはてな匿名ダイアリーの記事では売上本数が落ちた原因をWinny(+R4)と考えているようです。確かにWinnyを含めファイル共有ソフトにおいてゲームソフトはそれほど人気・需要があるという訳ではありませんが、影響があるかないかで言えば間違いなく"ある"でしょう。ただ私としては以下の2つも影響があったのではないかと考えています。

1・オンラインストレージ(アップローダー、サイバーロッカー)

R4とマジコンの名前を上げているの記事の対象ソフトはDSのソフトかと思いますが、DSのソフトはファイル共有以外にもFBIに摘発され閉鎖したMEGAUPLOADのようなオンラインストレージや中華系のサイトでも広く出回っていて、しかもDSのソフトはPS2PSPと比べるとかなりROMの容量が少ないのでオンラインストレージの無料ユーザーでも比較的楽にダウンロード出来るようです。そのため、何かとリスクが高いファイル共有ソフトではなくDSのソフトに関してはダウンロードするのにオンラインストレージの方を利用していた人も少なくないのではないかと思います。
ちなみにオンラインストレージに関しては2010年のアンケート調査で一回だけ調査されていて、オンラインストレージの利用経験者の中でダウンロードしたファイルのジャンルの割合は以下のようになっています。

・オンラインストレージでダウンロードしたファイルのジャンル(2010年)

※オンラインストレージの利用経験の全体の割合は15.9%
※対象は15歳以上。

ジャンル 割合
音楽 72.8%
日本の映画 14.1%
海外の映画 12.0%
アニメ 11.3%
テレビ番組 6.3%
ゲームソフト 4.9%
ビジネスソフト 4.0%
その他 19.9%
2・DSのタイトル数の増大

もう一つがDSのタイトル数の増大です。DSが日本で発売されたのは2004年12月2日で、その後タイトル数はこのように推移しています。
※タイトル数はCategory:ゲーム機別ゲームタイトル一覧 - Wikipediaにあるそれぞれコンシューマーゲーム機のタイトル数から抜粋。
wikipediaからの情報のため、だいたいこのくらいのタイトル数が発売されたという程度に見て下さい。
※配信専用タイトル、アーカイブ、追加要素のない廉価版・Best版は含まれていません。

GC wii GBA DS 3DS PS PS2 PS3 PSP PSV Xbox Xbox360 DC NEOGEO
2004年 47 * 185 14 * 2 464 * 18 * 57 * 17 3
2005年 11 * 79 112 * * 445 * 94 * 39 10 2 *
2006年 * 21 31 240 * * 332 13 188 * 2 60 2 *
2007年 * 101 * 426 * * 241 53 100 * 1 60 2 *
2008年 * 123 * 422 * * 146 81 103 * * 75 * *
2009年 * 104 * 298 * * 75 65 182 * * 75 * *
2010年 * 60 * 193 * * 39 110 224 * * 98 * *
2011年 * 37 * 74 88 * 6 147 190 20 * 117 * *
2012年 * 10 * 33 109 * * 143 182 66 * 86 * *

R4などのマジコンの流通が大きくなった2007年ごろは同時にDSのタイトル数が激増した時期でもあります。そのため膨大なタイトル数の中に埋もれてしまった可能性もあるのではないかと思います。


さらに、はてな匿名ダイアリーの記事のソフトがいつ発売されたのかわかりませんが2008年の後期以降ならリーマン・ショックによる景気減退の影響もあるでしょう。なので売上本数が落ちた原因をWinnyを含むファイル共有ソフトによる影響だけというよりは、上記を含む複合的な要因が重なった結果と見る方が妥当なのではないかなと私としてはそう考えています。

*1:「ノード」とは、ネットワークに接続しているPC等の端末を指します。